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おれの半分はミートホープで出来ている!

貧困

 最初にこの事件を聞いたとき、実を言うとそんなに驚かなかったんだよな。や、もちろん、事件の発生をあらかじめ予想していたってわけじゃないんだけども。ただ、おれはこの事件のことを耳にするずっと前から、こうした事件が起こることを諦めていた気がする。「あらかじめ諦める」だなんて、何だか変な言い回しになってしまったけれど、それが状況をもっとも正確に表しているようにも思う。
 だいたいが、いつも平気で口にしていたチープな加工食品の、その本当の中身をおれたちが本気で信用したことが一度でもあっただろうか。なんだか胡散くさいなあ、なんて思いながらみんな食べていたに決まっているのだ。おれたちが食べる餃子ははまるで餃子としてこの世に出現したような佇まいで、肉や小麦からそれが調理されている、という実感に乏しかった。綾波レイが保管されていたようなカプセルで培養されたバイオ餃子です、と言われたら、むしろそちらの方が納得できただろう。
 しかし、もちろん現実はもっとダイレクトに貧しかった。おれは普通に屑肉を食べさせられていたわけで、何と言うかもう、呆れるくらい生々しい血と肉の話だった。結局のところ、そうした生々しさをビニール一枚で覆ってしまうだけで、簡単に騙せてしまうのがおれたちだった。
 でもそれは、別に頭が悪いから騙されてしまったわけじゃない。どちらかと言うと、たぶん屑肉なんだろうな、と無意識的には気がついていたのだろうと思う。
でもそんなの貧しすぎる。貧しすぎて辛すぎるから、気がつかない振りをして意識から貧しさにビニールを被せて隠していたのだ。そして、今でもおれに貧しさを直視する気持ちはたぶんない。あんまりない。だって、実際、事件のあともおれはジャンクフードを食べることをやめていないのだ。だって、仕方がない。もうおれの身体は半分くらい屑肉でできているんだ。奴隷だ。 
昔、教科書で産業革命期の炭鉱労働者の写真をみて、「19世紀に生まれなくてマジよかった、世界大戦もあるしマジきのどく」とか間の抜けたことを考えていたのだけど、21世紀になっても人間は全然進歩していない。ちょっとだけ進歩したことがあるとすれば鞭の振るい方が上達したことくらいか。いまの連中の鞭はほんとソフトリーかつジェントリー。おかげで屑肉を食べさせられても幸福に生きていけます。
とかなんとかいって被害者ぶっているおれが履いているスニーカーはおそらく第三世界の子供たちの血と涙でできていて、しかもおれは不思議とそのことに心が痛まない。すごいな、前言撤回するよ。21世紀人の進歩は素晴らしい。鞭を振るわれても振るってもまるで気がつかない最高の社会制度を生み出しました。しかし、今日のおれは何でこんなに左っぽいんだろう……。