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部屋から一歩も外に出ないガイドマップ〜沖縄編〜

小説 マンガ 沖縄

 いよいよ夏休みですね。僕の地元である沖縄県にとってはまさにかきいれ時!絶対に稼がねばならない時期であるわけです。地元愛がピースなヴァイブスによって溢れんばかりにエンハンスされているid:yoghurtとしては、ここは当然、観光客増加に益するようなエントリを書きたい!そう思っていたのですが、私は沖縄人であるとともに一人のはてな市民でもあるわけです。はてな市民の90%は自分の地元に対していい感情を抱いていないとの統計結果はあまりにも有名ですが、かくいうおれもまた自分の生まれ故郷に対しては愛憎相半ば反す*1といった状態であり、そもそも僕の実家は観光産業で食っているわけではないので、観光客が増えたところで、道が混雑するばかりでメリットなどあるかといえば、とくにない……。
 しかし、そのような狭い視点で物事を捉えていては良いはずがない。道が混むからといって「わ」ナンバーを遠ざけていては、沖縄のような孤島はすぐに自家中毒を起こしてしまうのは必定なのだ。やはり僕は地元愛に従って、沖縄観光PRするべきだったのだ!!!結論が出たのは非常に喜ばしいことなのだが、しかしよく考えてみれば、おれがいま沖縄観光をPRする意味はあるのだろうか?日記の日付を見てもらえればわかることと思うが、このエントリを書いているときには、世間はもうとっくにお盆休みに突入しているのだ。意味がない……。泥縄にもほどがある。今からでは、航空券もホテルも予約が難しい。これでは、おれがとっておきの観光情報を出したところで、誰の役にも立てないではないか……。一度はうなだれかけたおれですが、垂れた頭をエウレカ!の叫びが叩き起こしました。そうだよ!飛行機に乗れないなら、乗る必要なんてないじゃん!世の中には現実よりも面白い沖縄がいくらでも転がってるんだから!


山原バンバン―メイドインおきなわコミック

山原バンバン―メイドインおきなわコミック


大城ゆかという地元の漫画家が地元の出版社「ボーダーインク」で出した漫画。初出はわりと昔(94年?)なのだけど、今でいえばあずまきよひこのマンガに通じるような日常への視点がすでに表現されている。絵はうまいんだか下手なんだかよくわからんのだけど、日差しの強さと影の濃さの表現や、田舎の暗闇の持つ、物や出来事の距離感が距離感があいまいに溶け込んでいくあの雰囲気を絵に落とし込んでいる辺りはほんといい。とにかく光の表現が上手い作家で、主人公たちが飲み会をする夜の浜辺の微妙な明るさ(あるいは暗さ)は、この漫画にしかがない表現になっていると思います。現実よりも面白い、というのがこのガイドマップのコンセプトなので、あまりリアル云々という言葉は使いたくないのですが、海で飲み会の描写はほんとリアル。沖縄の高校生ってだいたいあんな感じだった。たぶん今もそう。


ナチュン(1) (アフタヌーンKC)

ナチュン(1) (アフタヌーンKC)


現在アフタヌーンで連載中。沖縄×SF×クトゥルー?という意味不明な三身合体の結果生み出された異形のマンガ。世界征服をたくらむ青年と、島で浮いている漁師ゲンさんの心が通っているんだかいないんだかわからないやりとりがよい。セーネンは世界征服なんか企むくらいだから世間知らずの若者で、頭でっかちな失敗を繰り返すのだけども、世界制服を企むくらいだから、人を人とも思わぬような冷たい視点もあわせもっていて、それは沖縄での暮らしのなかでも安易に懐柔されることがない。ゲンさんは漁師なので、セーネンの野望になど全く興味がない。全くの他人がさほどさほど感化されることもなく付き合っていく中で、ちょっと面白い会話をしたりする。今、連載されているマンガのなかではダントツに面白い作品だと思う。余談ですが、セーネンがオナニーについて語る際に使用する「自体愛」という概念、おれはよくわかります。中学のころ、僕は「自体愛オナニー*2」を「人間性を磨耗させる行為」として己に固く禁じていました。


風車祭(カジマヤー) (文春文庫)

風車祭(カジマヤー) (文春文庫)


魔術・魔術・魔術!古川日出男、古橋秀行に匹敵するような近距離パワー系作家、池上永一。彼の作品の中でも最も読み応えのあるのがこの小説。石垣島を舞台にした、わりとロマンティックな小説で、250年前の幽霊に少年が恋に落ちたり、その少年に妖怪豚が恋に落ちたりしてしまうのだけど、彼の書く作品がただ単に小奇麗な恋物語にはなっていくはずもなく。プラトニック?クソ食らえ!生きてて恋すりゃ姦るんだよ!と言わんばかりの人間賛歌が、あっけらかんと倫理的にひどいことをする。少年のドッペルゲンガーは幼馴染を犯してしまうし、少年は少年でついうっかり獣姦してしまったりする。でも、だからといって全然汚い話はならないのがこの作家のすごいところ。この世ではどんなことが起きたっていいし、どんなことが起きたって生きていけるのだ。何もかもが許されている。許されている?誰に?神様に? もちろん神様は許さない。が、神様に負けないだけの気力があれば、何をしたって人間は汚れたりなんかしない。これほど爆力魔波な小説も他にないだろう。生命と精霊が混ざり合う場所としての沖縄を体験することができます。


 そんなわけで、上に挙げた三冊を読めば、三泊四日の沖縄旅行に出かけるよりもずっとエキサイティングで、スピリチュアルな体験ができるはずです。というか、僕は沖縄で18年間暮らしましたが、スピリチュアルな体験なんて一切なかったですよ。何が「生命と精霊が混ざり合う場所」だ、って感じですよ。あたりまえだけど、そうそう神秘体験がそこらに転がっているはず、ないですよ。だいたい僕らはどんなに大きくなってもアトムの子供。精霊なんて目の前に転がっていたって見えるわけないじゃないですか。だから本でも読むのが一番手っ取り早いんです。一緒に旅行に行ってくれる友達がいなくても、本なら一人で読めるしね。ただ、夏休みどこ行ってきたの、なんて聞かれると、けっこう困ると思うけど。まあ、それは仕方ないよね……。

*1:最近、伊波普猷の文章を読んで泣きそうになった。おれは沖縄のことを真剣にえないほうがいい

*2:オナペットの類を一切想像することなく、摩擦のみに真理を求める荒行