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人類皆兄弟じゃない

生活

世界がいかに広くとも、血を分けたきょうだいにしか分からぬ話もある。
「スミ……」
例えば、これだ。おそらく誰にも、何のことだかわからないだろうと思う。これから説明をしようとは思っているのだが、僕の拙い説明でこの擬音の持つ魅了をどれだけ語れることだろうか。全く自信がない。
「スミ…」
一言で説明するなら、これは「相手の死角に入り込む音」である。「死角」という視覚的な概念を音によって表現しているところが我々にとっての面白ポイントで、もちろん死角に入り込んだところで音が鳴るわけもないから、実際には自ら声に出す必要があった。発音をより忠実に再現するのなら、「スミ……」ではなく「スンミ……」と表記するべきなのかもしれない。ンが半角なのがポイントである。注意して頂きたいのが、これはあくまでも「死角に入り込む」音なので、もともと死角にいる場合には「スンミ……」を発音することは許されない。我々の間でもっとも高貴な「スンミ…」は、真正面から近づきながら不意に足をクロスさせ、相手の45°前方に屈み込みながら呟く「スンミ……」だった。もちろん、前方45°が死角であるはずもなく、受け手にはこのアクションが完全に見えているのだが、この「スンミ……」が美しく達成された場合、もはやそれは死角に入り込まれてしまったものとして、その後のいかなる暴力も決してかわさないのが受け手側の流儀であった。「スミ……」の原典は今となってははっきりとしないだが、おそらく少年漫画「忍空」に登場する擬音なのではないかと思われる。が、忍空にはそんな擬音など登場しないような気もする。きっと、どんなきょうだいにも、この手の話があるのだと思う。そして、その話はぼくに理解することのできない類のものなのだろう……。