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吹奏楽部が光なら、管弦楽部は闇なのだ

生活

吹奏楽部に入ると、ブサイクでもモテるという噂を聞いた。かなり信憑性のある話だ。僕の学生時代を思い出しても、チューバ男子は確かにモテていたのだ。そんなことが頭に残っていたせいだろうか。酒の席で、僕は友人に性質の悪い絡み方をしてしまった。
吹奏楽部というのは、それはとてもモテるそうだよ。君も高校時代は、さぞかし女の子を泣かせてきたのだろうねえ」
友人は高校時代、管弦楽部の部長を務めていた。
僕の意地悪い言葉を聞いて、さきほどまで朗らかに笑っていた彼の表情はたちまちに苦々しいものに変わってしまった。
「僕は全然モテなかったよ」
彼の声のトーンは明らかに低い。しまった、と僕は後悔したが、酒が入っていたせいもあって、なかなか自分を抑えることができない。
「そんなこと言って……君は僕をほんとうの友人だと思っていないから、ほんとうのことを教えてくれないのだろう」
最低の絡み方である。
僕の吐く息が酒臭かったのか。赤ら顔が気に障ったのか、彼は苦々しい表情を浮かべたまま、こう言った。
「同じ音楽系部活でも、吹奏楽部と管弦楽部は全然違う。奴らは光の使徒、こっちは闇の軍団だよ」
それは、太陽と月みたいな関係ってことかい?
 僕がそう応えると、彼の眉間の皺はいっそう深くなった。
「月なんてもんじゃない。管弦楽部は一筋の光も差さない、宇宙の僻地のような場所なのさ」
彼の言によるとこうだ。


  • 管弦楽部には、吹奏楽部における野球部の応援のような、外部に存在をアピールできる舞台が少ない
  • そもそも、管弦楽部に入部するような奴*1エヴァに憧れて楽器を始めたような根暗人間ばかり
  • 吹奏楽は、盛大に息を吐き出すセックス的な運動だが、管弦楽は弦をひたすら擦りあげるオナニー的運動。モテるわけがない

良い事なんてひとつもなかったよ、と彼は自嘲気味に笑った。
しかし、僕は彼の言葉を額面通りに受け取る気にはなれなかった。。
高校を卒業して何年も経つ今になっても、彼がチェロの練習*2を密かに続けていることを、僕は知っていたからだ。

*1:90年代後半からゼロ年代初頭の話です

*2:ちなみに彼はワンルームマンションに暮らしているため。サイレントチェロを使用している。