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アルパカ、君は美しい

写真 動物

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 もうずっと、おれは君に彼らのことを語りたくってしょうがなかった。この、光にあふれた美しい生き物のことを。こうやって君に手紙を書いている、今、この瞬間にだって、おれの喉の奥では彼らを讃える賛辞たちが爆発寸前で待機しているくらいだ。ほんとうに、おれはあれほど美しい生き物にあったことはなかったんだ。
 子供のころは、なんとなく来世も人間に生まれ変わるのだろうと思っていて、そのことに特に不満も持っちゃいなかったけれど、彼らに出会ってしまった今となっちゃ、もう人間なんてまっぴらごめんだぜって気分さ。これは掛け値なしにほんとうのことだぜ。
 おれはもう、彼らに生まれ変われないのなら、何にだってなりたくはない。少なくとも生き物はもう無理だな。虹の粒子や、風の断片、そういった微かな何かになるのなら、まだ考えてやっても良いが、それらにしたって彼らに比べればゴミクズみたいなものさ。
 これほど素晴らしい彼らのことを、今日にいたるまで君に伝えることができなかったことには、もちろん理由がある。そこには、幾つものややこしい問題が立ちふさがっていたんだよ。その中でも、一番の問題が奴らだ。彼らのことを語ろうとすれば、どうしても奴らのことを語らなくっちゃならない。順番をすっとばすってわけにはいかないんだ。
 そうだろ?
 天国について語るならまずは地獄について語らなくっちゃならない。その覚悟がおれにはなかった。
もちろん、今は違う。奴らの脅威、忌まわしい記憶に立ち向かう覚悟がやっとできたんだ。

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 ちょっと見た感じじゃあ、精悍な顔つきをしているように見えるかもしれない。浮ついた君のことだから、奴らに向かってカッコいい!なんて歓声を送ってしまうかもしれないな。おれもはじめはそうだった。誰彼構わず傷つけて、一顧だにしない。そんな生き方を強さと勘違いしていたんだ。
 実際の奴らは、そりゃあみじめなもんだったぜ。連中の中に一匹、病に冒されてしまった駝鳥がいたんだが、奴らが彼らに何をしたかわかるかい? ナイフのように尖った嘴で、弱った仲間を寄ってたかって嬲り物にしたんだ。病気の駝鳥は、かわいそうに、羽根という羽根を毟られて、血みどろのフライドチキンみたいになってしまっていたよ。ほんとうに哀れだったな。
 おっと、勘違いしちゃあいけないぜ。病気の駝鳥が哀れだったんじゃない。ほんとうに哀れなのは、弱った仲間を傷つけて恥じない連中のオツムの程度さ。あいつら、無闇やたらに襲い掛かってくるもんで、おれも危うくカメラレンズを叩き割られるところだったよ。正直いって、恐ろしかったな。でも、おれがほんとうに辛い思いをしたのは、この後のことなんだ…。

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 駝鳥に、ただ強いってことも良いことばかりじゃないって教わったばかりだったけれど、この瞳には参ったな。あんまり哀れで、おれはどうすれば良いかわからなくなってしまったよ。優しくしてやろうとしても、だめなんだ。連中は全くもって素直じゃないんだよ。声を掛けても、自分には関係ないぜって顔してやがる。そのくせ、おれが立ち去ろうとすると、哀れを誘うような目つきでおれを見やがるんだ。
 たまらなかったな。正直、おれは連中のことを全く嫌いじゃあなかった。でも、あんな態度されちゃあもうそばにはいられないんだ。そんなことは、連中にだって分かっているはずなのにな。あまりにも裏切られ続けたせいで、すっかり性根がひねこびてしまっているんだ。そんなこんなで、おれはすっかりしょげかえってしまって、もう君の住む街に帰りたいなって思い始めたころ、秋空から何とも言えないくらい優しい光が差してきたんだ。

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それが、彼らだった。もうここからは、言葉はいらないな。

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実際、おれは何も言えやしなかったよ。

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優しさが。

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悲しみが。

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そして、愛だけがそこにあったんだ。



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おれが、君に伝えたかったことは、実を言うとそれだけなのさ。



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