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おれたち秘境探検隊VOL.2―羽田空港、夢想家の密林―

写真 新企画

何も山奥ばかりが、秘境というわけではありませんよ。
hanataba
隊員Aの言葉だ。今回の探検は、ここから始まる。都市に出現した、偉大なる空白。そこに真っ黒なインク染みをなすりつけるのは、いつだっておれたち秘境探検隊の役目だろう。とはいえ、今回の目的地は羽田空港。近場だ。おれたち秘境探検隊本隊を動かすほどの作戦とはいえない。協議の結果、おれたち探検隊の別動隊であるところのおれたち高速機動隊を動かすことになった。おれたち高速機動隊の最大の特徴は、その移動手段にある。自転車。この原始的な人力機械は、都市の探索にはうってつけだ。
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廃車2
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東京は高度に公共交通機関が発達した都市だが、だからこそ、その網からこぼれ落ちた場所は、第一級の秘境となりうる。その素質は、そんじょそこらの田舎町とは比較にならないほどだ。そんな秘境をさすらおうと思うなら、おれたちはやはり自転車に跨るしかない。先ほどは、探索する、なんて言葉を使ってしまったのだが、この表現は実を言うとあまり正確なものとはいえない。こちらが秘境を探し求めるというよりもむしろ、おれたちの方が秘境に誘い込まれてしまうのだ。どんな乗り物よりも、自転車は道に迷いやすい。案内板や地図は、基本的に車のために作られたものであるし、自転車の自由な舵は、人に冷静を与えない。何となく行けるよね、という思い込みは、ときにおれたちを信じられないような場所に導いてしまう。ほんとうに不思議なことなのだが、毎日のように通勤電車で通過しているような土地でさえも、こちらがひとたび尻をサドルに載せてしまえば、想像もつかないほど奇妙な風景を見せてくれる。
koi
今回の目的地である羽田空港は、もちろん自転車でなくとも行くことができる。東京モノレール京浜急行空港線。実際、おれだって羽田空港にはいつも京急を使って訪れている。けれど、今回おれたち高速機動隊として出向くまで、おれは羽田空港の周りにこんな光景が広がっていることなど知らなかった。多摩川沿いを、ひたすら海に向かって自転車を走らせていると、まるで現実とは夢想世界200Q年に紛れ込んでしまったような錯覚を覚える。その日、おれは実に様々な人々や風景に出会った。その全てが美しかった。
川よりも長く多摩川に(1)
カンフーマスター
全世界にわずか百部しか存在しないという伝説の文芸誌UMA-SHIKA』。そこに収められている『あっちゃんの東京暴動』という小説は、近未来の羽田を、野犬の徘徊する危険な熱帯林として描いていた。荒唐無稽な夢想にしか感じられなかったその表現も、こうして羽田の風をその身に受けてみると、何だか信じられるような気がしてくるから不思議なものだ。
ところで、全世界でわずか百部しか存在しないという伝説の文芸誌UMA-SHIKA』は、その性質上、長らく入手が非常に困難であったが、オンライン出版サイト『WIKITT』でのダウンロード販売が開始されることになったようだ。しかも価格は300円と非常に低く抑えられており、オリジナル版にはなかった編集後記が付け加えられているらしい。今ならid:ayakomiyamoto先生のマンガ『かえってきた小鳥 おそろいのポシェット』をお試しで読めるとも聞いている。「そいつは、マストバイだぜ……!」隊員Aの呟きが、心地よい海風の中に溶けてゆく。もちろんだ。東京湾のきらめきの中で、おれのつぶやきはもはや声にすることもできない。おれは、心の中で、隊員Aの言葉を繰り返した。UMA-SHIKA、マストバイだ。