『田沢湖』『カラマーゾフの兄弟』


カラマーゾフの兄弟」でいえばね、おれはずっとイワン兄ちゃん派だったのよ。これまではね。だってさ、やっぱりさ、『罪のない子供たちをこんなひどい目にあわせるような世界なんてクソだぜ!」なんつってね、神様に対して喧嘩を売ってみせたイワン兄ちゃんには男気があったよ。それに比べるとアリョーシャなんてのはさ、モゴモゴと言い訳がましいというか、何考えてるかよくわかんないところがあってね、あんまり好きじゃなかったんだよ。

でもねえ、いま考えてみると、イワン兄ちゃんにとっちゃねえ、実際のところは子供のことなんてどうでもいいんだよな。何というか、あの人はキリスト教っていう、自分の知性に枠をはめるような存在に喧嘩を売りたいだけで、子供の涙なんてのは言ってみりゃあ、ダシにつかっているだけであってね。たとえば、イワンが、へちまの息子をどうこうできるような気はしないんだよな。もっと正確に言うならば、どうこうする気もあんまりないような気がする。へちまの息子の話を聞いているうちにイライラしはじめて、途中で家に帰っちゃうんじゃないか。下手をすると、松岡修造的な説教を始めてしまうかもしれない。おれには、そんな気がするな。

アリョーシャにもね、なんだか人をバカにしたようなところはあるけれど、彼はイワンよりずっと辛抱強いから、そのぶん愛の素質には恵まれているとは言えるのかもしれない。まあ、よくわかんないけどね。