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足尾銅山には早すぎる(OHT.5)

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レベル上げ、というものを一切やらない子供だった。おれは。ゲームは一日一時間、という昭和の家庭にありがちなルールに縛られていたおれにとっては……レベル上げなんて時間がもったいなくって、とても出来たもんじゃなかった。でも、そのうち、弱いままで荒野を旅することが楽しくなってきた。貧弱きわまりないおれのパーティにとっては、「さまようよろい」辺りのモンスターであっても恐ろしい強敵で、新しい町を探すことさえもが毎回いのちがけの挑戦だった。この一撃で相手が倒れなければこちらが全滅する、というシチュエーションでカンダタを倒したときの興奮は、今でも忘れられない。
そんなこんなで味をしめてしまったおれは、長じてからも出たとこ勝負を好むような人間になってしまった。そう機転の利くタイプでもないくせに、計画と準備なんてカッコ悪いね、なんて風に思うようになっていた。のんきなおれはすっかり忘れていた。ゲームと現実は違うということ。まともな人間がレベル上げ≒努力を怠らないのは、現実世界の王様は「しんでしまうとはなさけない!」で許してはくれないからだいうことを……。
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結論からいって、おれたちにはまだ足尾銅山はまだ早すぎた。この風景に対抗するだけの内面を、おれたちは育てていなかったんだ。見るもの全てがのしかかってくるように重かった。時間をおいた今でも、眼の奥に滑りこんだ風景がジクジクと膿んでいくようだ。わけもわからず、落ち込んでいる自分がいる。足尾銅山の観光施設での案内には、かつて世界有数の銅山であった足尾銅山の栄光を語りたいのだけど、かといって「公害」の足尾銅山に触れないわけにもいかないし……といったような煮え切らなさが漂っていて、おれにはそれがたまらなく辛かった。*1でも、ほんとうの足尾銅山はここからが本番だった。
足尾銅山観光をあとにしたおれたちは周辺の銅山跡を見て回った。ほとんどは立入禁止だったけれど、道路の前からでもすぐにわかるくらいに大きな廃墟がそこら中に建っているのだ。だいたいおれたちは廃墟については無邪気な感性を持っていて、廃墟を訪れてみても、寂しいとか悲しいなんて思ったことはなかった。古いジーンズをみてさ、いい感じに色落ちしてますね、なんてことを思うような軽い楽しみ方をしていたんだ。赤錆も、割れたガラス窓も、ちょっとしたデコレーションくらいに感じていたんじゃないかと思う。

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もちろん、それも、足尾銅山に来るまでは、ということだけれども。足尾はほんとうに寂しいところだった*2。確かに精錬所あとなんてのは遠目にもすごく風情のある建物だし、まるでロシアの秘密都市のようなスパルタンなカッコよさがあるんだけど……なぜかとても空しい気持ちになった。足尾銅山ってのは、亜流酸ガスで山を禿げ散らかして、鉱毒の池で村を沈めながら、それでもガンガン稼働させて富を産み出していたはずじゃないか。でも、なんにもないんだよね。どこへいったんだ、富は。おれは自分の地元を思い返してみて、暗澹たる気持ちになった。ここにおれの故郷の未来があるような気がしたのだ。きっと足尾も銅山が稼働していたときはそれなりに潤っていたのだろう。でも結局はこうなってしまった。このまま目先の金につられていれば、おれの故郷もいずれは決定的にいかんことになってしまうだろう。そりゃあ基地があれば補助金は貰えるだろうが、そんなもんは無駄な道路工事に化けるだけで、結局何にも残りはしないのだ。自分たちの意志で物事を決めることができなければ、結局は食い物にされるだけで、いいことなんかはありゃしない。もちろん、足尾銅山がそうだったように、弱いものが何を言ったって、最終的にはどうにもならないんだろうけど…。それでも、はじめから言いなりになっていいということにはならないはずだ。

谷中村 - Wikipedia
鉱毒→土地価格下落→土地強制買収
鉱毒→免租→選挙権喪失
鉱毒→税金未納→土地差押
のコンボはあまりにむごい。
こういうのはいかんと、おれは思う。
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※関連
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おれたち秘境探検隊東北支部vol.1―美しき高原に佇む廃アパート群―
過去の探検記録
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おれたち秘境探検隊Vol.2―羽田空港、夢想家の密林―
おれたち秘境探検隊Vol.3―死の海岸と秘境の果て―
おれたち秘境探検隊―大電波塔に眠るまぼろしの美獣―

*1:土産物屋のセンスもなかなかのもので、銅のたらいや銅の洗面器。靴下に入れると消臭効果があるという銅板など、魅力的な商品のオン・パレードだった。何も買わないで帰るのも何となく悪いような気がして、湯葉入りチョコレートクランチを買った

*2:ほんとうは一旅行者の勝手な印象を、こうして文章なんかするべきではないのかもしれないけれど……。足尾の人がみてたら、ごめんなさい